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・・基本有言不実行・戯言駄文録・・・
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03.29.15:09

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  • 03/29/15:09

05.14.16:34

それでも一緒にいたかった?

やっと、俺の身体は大破された状態から、もと通りの形に再生された
バラバラに骨まで細かく刻まれていたんだ
時間は十年以上もかかってしまったが、まさか元に戻るなんて思いもしなかった
無意識の中でよくここまでできたなと、我ながら感心せざるをえないだろう
やはり俺には不可能は一つもない
身体と意識が戻ったのなら、真っ先に行くべき場所は決まっている
エルベラーゼ
最愛の妻 そしてもう一人の、愛しい我が子
家族のもとへ帰らなければならない
エルベラーゼ
最愛の彼女は俺を待っていた
場所は彼女の城の小さな窓の先 真っ暗でしめった牢獄
彼女は窓に手をかけ、粉雪が降り積もる静かな闇を眺めていた
それは皮肉にも、俺という存在が生まれた瞬間 俺が見た最初の景色と一致した
俺はこの瞬間に出会い、この瞬間をみつめ、この瞬間に恋に落ちた
美しい、本当に美しいその姿
胸の奥底を突き抜け、揺さぶり狂わせる愛しい存在
お前は何一つ変わっていない
あの日の 美しい乙女のままだ
絶壁を抜け、荒野を抜け、町を抜け、城壁を抜け
あなたはもうすぐそこにいる
美しい姫君は、俺と別れたあの日のまま 美しい姿で俺の前に現れる
あれから十年もたったというのに・・・俺の愛するエルベラーゼは、何一つ変わっていない

「エルゼ!!」
俺は大きな声で、愛する人の名前を呼んだ
俺の声に気付き、真っ直ぐに俺の存在に気付いたエルゼは、本当に嬉しそうな、泣きそう顔で、小さな窓枠から今にも落ちそうな程身を乗り出して、笑った
「レトロ! あぁ、私のレトロ! 待っていた、本当に待っていたわ!」
エルゼに導かれ、暗い牢獄の中へ滑り落ちる
エルゼは突然現れた俺に対しなんの疑問も持たず、突然消えた俺に対しこれっぽっちの恨みも持たず
ただひたすらにぬくもりと愛情を求めてすがりつく
俺はそれに答える 強く強く抱き締める
「もうどこにもいかない ずっと一緒にいよう」
懐かしい匂い、懐かしい体温、懐かしい声色、懐かしい感触
俺は帰ってきたんだ お前と同じ唯一の肉体で、こうやってたった一つの存在として、お前の傍へ
「突然いなくなってしまってすまない 一緒にいられなくてすまない 一人にしてしまったことが、本当に悔しくて仕方がない ごめんな、エルゼ 愛してる これからは、ずっと一緒だ」
「レトロ・・・大丈夫よ 私は待っていただけだもの あなたと出会う前と同じ様に
あなたは絶対に私のもとに帰ってくるし、私のもとを絶対に離れたりはしない
だって、あなたは私を愛していて、私はあなたをあいしているんだもの」
抱き寄せた腕の中で、エルゼは頭をあげ、俺の瞳を真っ直ぐにみつめる
あぁ、なんて愛しいんだろう
十年ぶりの口付けを交わし、二人は何度も愛を確かめる
不安だからじゃない、満たされたいから確かめ合う
愛の言葉を囁き、愛の口付けを交わし、愛の告白をする
「でもね、レトロ」
エルゼは口を開き、言葉を紡ぐ それもまた、愛の告白
「ずっと一緒は、難しいみたいなの」
「え?」
そういった彼女の手には、大きな刃物が握られていた
一体何時の間にと思ったら、よくみると湿った床の至るところに鋭利で暴力的な凶器が散乱していた
「私は、死んでしまうかもしれないの あなたがいない間、それだけが不安だった もし私が死んでしまったら、あなたはこの先、私のいない世界で暮らさなければいけない 嫌でしょう?悲しいでしょう? 私もそう、とても悲しい あなたの命の最期まで、伴にいられないことが、とっても悲しいの あなたが先に死んでしまっても、それは同じよね だって私はあなたを愛しているし、あなたも私を愛しているんだもの」
「何が言いたいんだ・・・エルゼ?」
エルゼはいつもの柔らかい笑みを見せ、刃の切っ先を俺の胸に押しあてた
「一緒に死にましょう そうすれば、私達、ずっと、ずーっと一緒にいられるわ!」
「エルゼ、お前・・・っ」
凶器を掴む細い腕を、俺は強く握りこむ
「どうしたんだエルゼ!」
「何故止めるの? あなたも私と同じでしょう? 愛しているのでしょう? 愛してくれるのでしょう? ならば一緒に死にましょうよ そうすればもう苦しまない 愛し合ったまま、私達はずっと一緒にいられる ずっと一緒にいたことになる! それって素敵よねぇ、とっても素敵 私達の愛は、こんなにも素晴らしい! さぁレトロ、一緒に行きましょう 大丈夫、痛くはしないわ 私があなたを苦しませるわけがないじゃない あなたの心臓の位置ならば、目を閉じていたとしても分かるわ! だってあなたはいつでも私を優しい抱いてくれたから、包み込んでくれたから あぁ、なんて幸せなんでしょう あなたに出会えて、巡り合えて、本当によかった こんなに満たされて、こんなにも幸せを感じられて 最期まであなたの傍にいられるの 幸せ、私はとても幸せ、愛してる、愛してるわよ、レトロ 私の愛しい、私だけの愛しいあなた」
エルゼの言葉は、俺の心に大きく響いた
放心しきった俺の脳には何も浮かばない
手首の拘束がゆるみ、エルゼの白い手に握られた刃が、俺の胸を、貫いた
エルゼはまだ何かを言っている
愛してる 愛してる 愛してる
呪文のように愛を囁き、告白し、刃を向ける
確認ではない
儀式でもない
これはなんだ? どうしてエルゼが、俺の愛するエルベラーゼが、愛されているはずの俺に刃を向ける?
命を奪う?
何があった?
どうしてこうなった?
エルゼは何時だって、優しくて、綺麗で、美しく、上品で、強く、清く、真っ直ぐだった
それが、どうして
それがいけないのか
俺が・・・そうしたのか?
俺がこの愛しい乙女を、狂わせたのか?
そうだ、そうに違いない そうでしかない 俺が悪いんだ
俺がこの人に出会ってしまったから
好きになってしまったから
幸せになって欲しかったから
愛して欲しいと、願ったから
神である俺が
人ではない俺が
生物ですらない俺が
存在してすらいなかった俺が
愚かにも、愛する人の傍にいたいと、願ったからだ
全てを思い通りにできるんだ
時間も、大地も、命も、心も
全部知っていて、全部出来る
俺の望むままに世界は廻り、俺の望むままに世界は変わる
そんな俺が、人を愛する?
支配することしか出来ない俺が、愛する人を、エルゼを、エルベラーゼを、幸せに、出来る?
そんなわけない
そんなわけがない
エルゼは、俺という神位に操られていたんだ
俺の理想の女性に 俺の愛しのエルベラーゼに 俺を愛する恋人に
俺の無意識が、彼女を大きく狂わせた
俺がこの十年間、必死で身体をつなぎ止め、再生を繰り返していた間、俺は何度もエルゼへの愛を叫んだ
会いたい
傍にいたい
離れたくない
一緒にいよう
一つになろう
伴に歩もう これまでも、これからも
ずっと伴に 愛し合おう
愛してる
大好きだ
愛しいんだ
死ぬほどエルゼが好きなんだ!
お前にあって俺はこの世に生まれ落ちた
お前に憧れ、お前に会うためだけに人として転生し、お前に愛してもらうために存在し続けた
愛の言葉が欲しいから、悲しい顔をさせたくないから、すきだから、幸せにさせたいから、地の底からはい上がって来たんだ
お前がいたから、俺は愛を知り、心を得て、命を手にした
愛しのエルベラーゼ
俺はお前に、何をしたんだ?


薄れゆく意識の中で、最期に見たのは、俺の上にかぶさるように死んでいるエルゼの姿
俺の心臓とエルゼの心臓が、一本の長い刃で繋がっていた
エルゼの表情は驚くほど穏やかで、不穏な程幸せな笑みに満ちていた
俺は流れるエルゼの体液を身体で感じながら、そっと瞳を閉じる
俺の人生はどうしようもない罪そのものだった
せめて、罪滅ぼしにもならないけれど、せめてもう二度とこんなことが起きないように、俺はここで死ななければならない
記憶も、命も、心も、愛も、全部捨てて、俺はもとの姿へ還っていく

「母さん」

声がした
俺は驚き、目を見開いた
声がした方
血の染み込んだ、薄い石壁の向こう側
誰かの悲痛な叫び声が零れた
それは多分、俺が刺された辺りから、ずっと聞こえていたはずの、小さな声だ
愛を求める、悲痛の叫び
満たされて死に行くものの囁きではなく
愛に飢えた孤独の叫び 絶叫
「母さん!母さん!母さん!母さん!母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん」


「俺を置いていかないで!!」

その瞬間、世界は暗転する
俺は意識を手放し
愛する彼女は暗く目を閉じたまま
愛する我が子の世界は絶望色に崩壊した



その瞬間、世界は大きく歪み始める
俺は一体、何をしたんだ


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06.10.03:48

無我夢中


強いものを壊す話



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02.11.19:14

煉獄と信愛なるあなたは


文庫版「それでも神話は生誕するのか-from Abroad-」に掲載されていた短編です


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11.29.00:55

初恋色の愛国心


とある辺境貴族の思い出話
神話生誕記述14くらいまでのネタバレを含みます
 
 

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11.21.07:10

恋が禁忌とされる訳

神話生誕 記述16のどこかの幕間
知らない方が良い話
(記述18までのネタバレを含みます)




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