ANZUs VOICE second

何年振りに目を開けたのだろう
灰色の曇天が視界を埋め尽くしていた
動ける？
指が一本だけ揺れた
すると指先の神経が、不思議な感触を知らせてくれる
ふんわりとした何かに触れている
なんだろう？
僅かに動く指先でもう一度、そっと触れてみた
押し込むような感触
あげた指はかすかに濡れていた
指の下をすーっと何かが流れていく
冷たい
途端、止まっていた脳が動きだす
起き上がり、立ち上がり、目の前の光景を思考する

雪

どこまでも広がる白
白
白
真っ白な、雪景色

思い出す
何かの記憶が自分の内から流れ出ていく
これは何　何の記憶　誰の記憶
無償の愛究極の理想真理の束縛裏切り復讐逆恨み破滅壊滅恐怖運命
心が軋む何かが叫んだ音
心の中にいたあの人の絶叫断末魔
視界一面の白は奥深くに沈んだ記憶を押し出していく
また一人死んだ
次は誰だろう
あの人かな？思い出の中にかすかに浮かんでいる、あの人？
次は誰だろう
答えはすぐにわかった

「かかれっ！」

声がしたとびきり大きな声だ
途端に意識が目の前の白に引き戻される
だが、今度の白には不純物があった
小さな点が、横一列でこちらを睨んでいる
人だ
私は目を見開いた
自覚の瞬間
ほんの一瞬で、私の心は真っ白に濁った
そして暗転
突然の黒
残像黒の中に何かがある
それは何か

恐怖

目を開く
目の前にあったのは、赤
赤く染まった雪景色には、たくさんの人型が転がっていた
すると蘇るのは、黒の記憶
殺したのは私
殺しに来たのは彼ら
死んだのは彼ら
生きているのは私

私？

そんなわけがない
私はさっき死んだばかりじゃないか
残っているのは『歪み』
世界の歪み
神の産み落とした、ただ一つの過ち

歪み　歪み　歪み
ごめんなさい
謝ります
許して下さい

それでも私は、傍にいたかったんだ

神話伝承

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