01.08.14:55
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05.19.19:19
死神がいた町
なんか前に思いつきで書いたヤツ
暗い話作るの大好きだよねコイツ
死神がいた町
国境のとある町
かつて隣国の支配下にあったこの小さな町は、支配国の滅亡と共に自由を手にする
城が落とされてから間もないある日、上機嫌な町民のざわめきの中を一人の少女が歩いていく
隣国の災難に巻き込まれ、激しい疲労と空腹に苦しみ果てた末、少女は町はずれの木の根元で倒れてしまう
それを見つけたのはとある兄妹
二人は少女を家へ運び込み、看病をする
目覚めた少女は兄妹に感謝の言葉を連ねるが、ふと何かに気付き困り果てる
命からがら国を逃げ出したのだが、行くあてがない
そんな少女に兄はこの家に留まる事を進める
驚く少女と妹を説得し、兄の提案はすぐに承諾された
兄は少女に恋をしてしまったのだ
そうして三人の生活が始まった
稼ぎの少ない兄妹のためにと、少女は町の雑貨屋で仕事をもらい、一生懸命働いた
兄は建築物の修理、修繕で町中を駆け回り、妹は市場で下働きをしながら家事に努めた
暮らしは一向に良くなる兆しを見せなかったが、それでも三人は貧しいながら豊かで幸せな日々を過ごしていた
だがその間、町には変化が訪れていた
国がなくなったことによって辺境の地と化したこの町には行商人は足を運ばなくなり、
交易が出来なくなった町の経済は混乱した
町には貧民があふれ、治安は急激に悪化していく
人を狂わせる恐ろしい薬物が町に出回り、
夜には人殺しの通り魔が現れるなどという不穏な噂も流れるようになっていった
町民はそれらを死神と呼び、恐れ、怯え、憎悪した
兄妹と少女の生活は底知れない貧しさを極めてゆくのであった
ある時、兄は夜中に少女が一人で家を抜け出していくのを目にしてしまう
最近思いつめたように放心していることが多い少女
兄は貧しさに業を煮やした少女が身売りに走ったのではと不安になり、少女の後をつけていく
少女は暗い路地裏の奥底で一人の青年と会っていた
しばし話し込んでから、二人は揃って移動を始める
たどり着いたのは月夜の奇麗な湖で、少女は湖畔にしゃがみ込み、花を幾つか摘み取った
それをみた青年は目的を果たしたとばかりに、なんの未練もなく少女の前から去ってゆく
兄は青年と別れた少女に近づき、訳を尋ねた
少女は兄の存在に驚いたが、気にせずすぐに事の次第を打ち明ける
青年は近頃この町にやってきた情報屋の知り合い
町人には簡単に居場所を知られたくなかったので、兄妹には黙って出てきたという
今宵は毒に侵された野兎の為、薬草の場所を教えてもらっていたのだ
兄は安心し、少女を抱きしめた
そして少女に愛の告白をする
少女は兄の口付けを受け止めたが、その答えに時間を望んだ
翌朝、何事も無かったように挨拶を交わしあう少女と兄、妹
少しばかりの変化を加えた変わらぬ貧しい日常
それでも日を追うごとに治安は悪くなるばかり 町はすでに狂気の中に沈んでいた
まるで比例か反比例か、一方で兄の少女への愛は日に日に増していく
妹はそんな兄の姿に不満を感じるようになる
そんなある日、少女は夜道で凶器を手にした男に襲われた
肩に深い傷を負った妹は兄に泣きつくが、兄は妹に冷めた言葉をかけるだけであった
妹は兄の態度に怒り狂った
兄がこうなってしまったのは少女のせいだと思い至った妹は、遂に少女の食事に毒を盛った
兄は毒にうなされる少女の姿に大いに驚き、慌てふためいた
少女の病状から、噂に聞く薬物の毒ではないかと見当をつけた兄は、情報屋の元へと急いだ
しかし情報屋の青年は兄に情報の対価として大金を要求した
貧しい懐にそんなものを買えるだけの金はなく、兄は泣く泣く家路につく
兄は妹に相談するが、妹は少女のことを気にした風も無く、むしろ見捨てることを提案した
少女は所詮余所者で、血の繋がっていない全くの他人である
そのうち妹は少女が以前どうやってその情報屋から薬草の情報を買ったのかという話を始めた
身売りでもしたのではないか?
兄は軽率な言葉に怒り、妹の頭を殴りつけた
呆然とする妹を前に、兄はとある考えを思いついた
妹を売ろう
狂気に駆られた兄は妹の手を引き、男達の中に投げ入れた
手に握らされた大金を懐に収め、兄は妹の泣き叫ぶ声を後に、情報屋へと走った
金を受け取った情報屋は、少女の病状に合わせた薬草の種類と生息地を教えた
町はずれの、かつて少女が薬草を摘んでいた湖に生えている赤い花
それを数週間毎日欠かさず与え続ければ、いずれ目を覚ますと、情報屋は言っていた
湖からの帰り道、兄の前に金目当ての男達が立ちふさがった
兄は男の手から刃物を奪い取ると、あっという間に全てを殺してしまった
何発か拳をくらい、肩で息をする兄の前に、しばらくするとまた別の集団が襲いかかった
それから兄は毎日のように危険な町を横断し、薬草の為に刃を振るった
兄の心身には疲れが溜まり、自由に動かぬ身体と朦朧とした意識の中、兄の前に情報屋は現れた
これを使えば楽になる
気休めだとは解っていた
だが、正気を失った兄を丸めこむのは簡単で、次の瞬間には兄の手には薬が握られていた
生活には路地裏通いが加えられた
ろくに食事も摂らず、兄は湖への道を駆け回り、人を殺し、手に入れた金で薬を買う
そんな日が永遠と続いたある日、少女は兄の腕の中で目を覚ました
やつれた兄は少女を抱きかかえたまま、愛してる、愛してると、かすれた声で繰り返す
少女はその姿を見つめ、静かに家を出た
灰色に荒廃した変わらぬ地図の町を歩き、少女は情報屋のもとにやってきた
まるで時が止まっているように、何ら変わらぬ出迎えをする情報屋の青年
目的は達成された
少女は情報屋へそう伝えた
情報屋は優雅に笑うと、少女に火と油を与えた
少女は兄の家の前に立ち、その家に油をまき、火を放った
木屑と埃の積もった粗末な小屋は、あっという間に燃え上がる
火は広がり、広がり、燃え広がり、町は火の海へと姿を変えた
少女は町はずれの湖で、真っ赤に燃える町を眺める
その腕の中で一匹の野兎が鳴き、少女はそれに笑いかけた
ふとしばらく前に聞いた噂話を思い出す
この町には死神がいる
なにか納得したように少女は頷くと、死神がいた町の最期を背に、次の町へと歩いて行った
END
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