忍者ブログ

・・基本有言不実行・戯言駄文録・・・
12 2025/01 1 2 3 45 6 7 8 9 10 1112 13 14 15 16 17 1819 20 21 22 23 24 2526 27 28 29 30 31 02

01.09.11:28

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  • 01/09/11:28

06.28.02:52

夜光A(暫定) 途中書き1

 町灯の一つもない真っ暗な山道を、一人の男が歩いている。月明かりの下、丈の長いコートに身を包んだ背の高いシルエットだけが、ぼんやりと闇の中に浮かび上がっていた。紐に吊るした大きな桶を背に担ぎ、軽くも重くもない足取りで山を下る。
 男は仕事を終えたばかりだった。後はこの首桶の中に詰め込んだ証拠を、依頼主に捧げるだけだという。
 腰にぶら下げた小刀が、男に語りかける。
「まだ帰らないのですか?」
「何処にだ?」
 小刀はそれきり一言も発さず、そのまま男は歩き続ける。麓の町が見えてくると、チカチカと目映い夜光の明かりが男にも届くようになっていった。浮かび上がった男の表情は精悍で重々しい。ただ、その視線の先には何もなく、帰る場所も確かになかった。


【夜光】


 時計の針が真上を指す、深夜零時の酒場。夜更かしの得意な荒くれ達は、日付が変わっても懲りず飲み続け、人でごった返したフロアーは喧しい音で溢れていた。笑い声、話し声、怒鳴り声、食器のぶつかり合う危なっかしい音もあれば、ドタドタを歩き回る物音や、歌声なども流れる。あらゆるものが混ざり合い、酒場という深夜の風景を創りだしていた。
 鳴り止まぬ喧騒の中、隅で独り静かにグラスを傾ける、あの男の姿があった。
 スッキリとした輪郭、整った高い鼻筋、堀が深く皺のない額。マスクかと思う程大きなサングラスで顔の大半を隠しているため、眼元や表情は窺えない。しかし残った部位だけでもその男の容姿が優れていることはよくわかった。
 席を並べる他の客たちは、男の細かい要所を勝手に観察してはヒソヒソと小声でさわぐ。自分が酒の肴にされていることに、男はスッカリと気付いていた。落ち着きなく左手の指でテーブルを小突き、イライラとフロアーの一角を真っ黒なサングラス越しに睨みつける。
 視線の先、大きなカウンターの前には全身を金色の甲冑で包み込んだ男が立ち、従業員らしき中年と何やら話をしている。中年の従業員は甲冑の話に適当な相槌をうちながら、睨みつける男の方を横目で伺いながらニヤニヤと笑っている。不愉快を全身で表すかのように椅子にもたれ掛り、腕と長い足を組んだ男を、チラチラニヤニヤ見据えてくる。何の意図があるのかはわからないが、良い気分になどなりはしない。背後の喧騒を含め、ストレスの海に喉まで浸かった男はついに我慢しきれず席を立つ。
 ガシャン。
 高音が跳ねたその後に、フロアー中の人間の動きが止まった気がした。誰一人声を発さず、突如訪れた無音に驚き、周囲を見回す。静寂の波は店の入り口の方から押し寄せていた。それをわずかに感じ取った誰かが顔を向け、それにつられて次々と酔っ払いの視線が店の入り口に集まっていく。例外はなく、男もまたその空気に呑まれ、動きを止めていた。
 入り口の大扉はバックリと二つに開き、その間に堂々とした立ち姿の、誰かが立っていた。男の位置からではその全てが窺えない。しかし、嫌な予感がした。漆黒の絹織物がわずかに見えた。金と銀の装飾品が、薄暗い電球の下でギラリと、獣の牙のように閃いた。
 カツカツと軽く、鋭い足音がする。足音が迫る。
 男は他の客と同じように唖然とした表情を浮かべる。立ち上がったばかりの大きな体をぎゅっと屈め、その誰かの方を、じっと、やはり音も無く、凝視している。
「なんだ、ゴミばっかりじゃない」
 無音の店内に、男とも女とも判別しがたい綺麗な声が響いた。その声に誰もが聴き入り、耳を傾けた。男の背に汗がつたった。
 陽の一つも感じさせない、夜空の様な黒髪。病的な程白い肌。人と人の間から微かに見えたその容姿には見覚えがあった。まるで精巧な人形のように完璧な美しさ。つまらなそうにフロアー中の人間を見下す、満月の双眸。
 その金色と、目があった。





拍手[0回]

PR
URL
FONT COLOR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
PASS

TRACK BACK

トラックバックURLはこちら