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・・基本有言不実行・戯言駄文録・・・
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04.28.19:21

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  • 04/28/19:21

10.12.05:23

我に宝を齎したまえ

まさかの北欧神話二次創作
ケニング多めの雰囲気重視な文体で楽しかったです
穴の多い北欧神話の物語を妄想で補間するのは私にとって最高の娯楽なのかもしれません
こうしてキチンと向き合いながら形にするのは初めてなので、少しドキドキしました
内容はホモです ほ、ほも? 性別ってなんだろうね





我に宝を齎したまえ

「今宵、一杯組み交わさぬか」

 月も無いのにやけに明るい夜のこと。独り折れた柱の上に座り、怒り狂う群衆の篝火を遠目から眺めていた男に義理の兄から誘いの声がかけられた。

「その言葉を聞くのは久しぶりだな、ロプトの兄よ。もしや最愛の子を失った悲哀を酒にでも慰めてもらうつもりか?」
「貴様の方が余程悲しんでいるように見えるぞ? 無理もない。俺の最優の息子たるバルドルは万物に愛されていた」
「物知り顔だなバルドルの父よ。お前の望みは何だ?」
「今宵は気分が良い。永らく追い求めていた最上の肴が手に入ったのだ。我が愛しき弟、ロキよ。私は貴様と酒を酌み交わしたい」
「良かろう。その望み叶えてやる。しかし一つ改めよ。この世に愛しき弟などいやしない。あるのは杯と共に交わした義理の契りだ」

 オーディンが片腕を挙げると両者の眼前にスレイプニルが風のように現れる。その背に跨ると、駿馬はヴァルハラに向けて空を駆け上がった。
 遠くに見たイザヴェルと同じようにヴァルハラもまた喧騒の炎に包まれていた。同志が死しても眉一つ揺らさなかった勇士たちの瞳には激情が浮かび、名も知らぬ仇敵を求めて宛もなく彷徨う。
「夜が明けても戦死者共は館に帰らぬだろう」
 そのような館の主の言葉と共に一番奥の特等の席に招き入れられる。机上には黄金に輝く蜜壷と二つの立派な角杯が置かれていた。
「最上の肴とやらが見当たらないではないか」
「席に付け、それも直にわかろう」

「我が妻は泣いていたな」
「最愛の子を失った母ならば当然のこと。しかし父はどうだろうな。己の腹を痛めたわけでもない子を、愛することなど出来るだろうか」
「家族を手にかけられれば子であろうと叔父であろうと怒りに燃えるもの。子だけが特別というわけでもあるまい。そういう者は端から愛を知らぬのだ」
「バルドルの死をどう思う?」
「実に痛ましい。全ては巫女の予言の通りか」
「万物の偉大なる父よ。望みが叶わぬことは辛かろう。それはニヴルヘルの遥か底のように冷たく、我が子を失う悲しみよりも深いものだろう」
「俺は今まで多くの偉業を成してきた。その全てが泡沫に消えることだろう」
「全てがお前の望み通りになれば、この世は光輝に満ち満ちていただろう」
「アースガルズのじゃじゃ馬よ、実に良い事を口にするではないか。やはり貴様と飲む酒は格別だ」
「蜜酒欲しさにとうとう舌まで泉に捧げたのか? まさしく酔狂な奴だ」
「舌ならあるとも」
 オーディンはロキの首を掴むと、その口に己の舌を滑り込ませた。ロキの手から角杯が落ち、零れた酒が床に滴り落ちる。
「悪食め。お前は酒しか口にしないと聞いていたはずだが」
「貴様なぞ酒とそう変わらぬ男だろう。私に栄光ある知恵と恍惚たる酔いを齎し分別を奪う。果実さえ喰らえば死を忘れられる我らに必要なのは勝利の美酒だけだ」
 首を掴む力から逃れるべく身をよじろうとも戦神の腕は動かない。
「ロキよ。貴様はこの国を去るつもりか?」
「我が兄よ、お分かりか。この国の王がどれだけ軟弱な兵で身を固めていようとも、決して仇敵を逃すことのないかの雷がいる限り、同朋殺しに逃げ場などない」
「ならば終わりを望むか?」
「それもよかろう。ヘルヘイムには愛娘がいる。あれは物わかりの良い出来た子だ」
「俺が認めた男の一子だ。かの駿馬を見たか? あれもその者の子だ」
「そのようだ。お前は随分あの馬を気に入っているようだな」
「俺は力あるものが好きだ」
「そのようだ。では、白髪の男の萎びた腕一つにすら屈する弱き者が何処に行こうとも知ったことではないだろう」
「我らに栄光をもたらす知恵と、薄汚い生への執念を力と呼ぶ。スヴァジルファリの妻よ、神々の王の前を去るというのなら、最後にもうひとつほど私と偉業を成してみないか」
「これ以上何を望む」
「俺の女になれ」
 義理の兄である男のもう一つの腕が弟の腰を掴む。引き寄せた体を肩布の下に隠し、男は麗しの美貌をのぞき込む。
「神々の王に至上の宝を献上したあの時のように、その身を卑しい売女に変えろ。そして高貴なる女神と同じように媚を売り、俺の上で腰を振れ」
「不貞の夫、卑しいのはお前の方だ。それ程までにラグナロクが恐ろしいか?」
「恐ろしいとも。手に入れたものを失うことほど恐ろしいことはこの世に無い」
「愚かな父よ。お前の手にしたものなど母なる世界樹から与えられた魔術の知恵しか無いではないか」
「ならばお前が世界樹の実を俺に与えろ、ラウフェイの子よ。後生大事にし、良き冥府への土産とする」
「愚かな兄よ。どうやらこの拘束は鉄の巨人ですら壊せぬほど頑丈なものらしい。窮屈で敵わん。だがこの狭苦しい鎖の中にならば、小さき巨人の居場所もあるのやもしれぬ」
「我が愛しき弟よ。確かにここには帰るべき故郷があるだろう。しかしそれも今宵限り。陽光の射ち落とされたこの国に夜明けは来ずとも朝は来る。ロキよ。俺は貴様と迎える滅びならば恐れずにいられただろう」
「オーディン、勇敢なる神々の王。私はお前に多くの宝を与えてきたが、醜悪な臆病風まで与えたつもりはない。それは私の大切な一張羅。世が明けるまでには返してもらおう」
 

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