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・・基本有言不実行・戯言駄文録・・・
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01.09.11:37

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  • 01/09/11:37

05.22.05:49

追憶:導きの英雄

 記録6~9.10
 
 
 
 
 
 ある年、ある日、
 
 十数年ぶりに神はイレクトリシティの大地に、天空に、雷鳴を轟かせた
 
 とある男が云うに、それは青く一面を照らし上げ、音もなく山頂に落ちていったという
 
 
 
 
 


 
 
「Hey ボーイ! はうあーゆー!」
 
 軽快なドアが開く音がして、陽気な声が質素な部屋に響いた 他でもない自分の声
 
 しかし部屋には誰の姿も無かった
 
「お?」
 
 俺は素っ頓狂な声をあげて、もう一度部屋を一望してみた やっぱりいない
 
「隠れてるのか?」
 
「隠れる必要性がわからないね」
 
 不意に独り言を突っ込まれてしまった
 
 振り向くと、見慣れた呆れ顔がつったっていた
 
「よ! どうしたマグニ君 こんなところで」
 
 我が部下はせっかくの挨拶に盛大なため息をつくと、脇を過ぎて部屋のドアを閉めてしまった
 
「あの子なら今出かけてるよ もうすぐ帰ってくると思う」
 
「出掛けたって・・・子供一人で? てゆーかどこに?」
 
「金物屋 この間君がぶち壊したフライパンの修理が済んだそうだから、受け取りに行ってもらったんだよ
 
 ・・・言っておくけど、あの子が自分から申し出たんだから、僕がどうこうとかまた騒がないでね」
 
「えー・・・」
 
「えー・・・じゃない
 
 わかったらもう少し休憩時間を有効に・・・」
 
 コイツの口調はイチイチとげがあってムカつくんだよなぁ
 
 さて、いないとわかったらこんなところにいる必要は無い 何しようかな?
 
「ああっ! ちょっとトールさん!? まだ話のとちゅ…」
 
 とりあえずその場から逃げることにした 俺は廊下を走ってのろまなマグニ君を振り切った
 
 次の勤務まではまだ時間が十分にある こちらから迎えに行くというか、出向いてやることにしよう
 
 
 
 
 
 
 
「ねぇ、あなたはもう聞いた?」
 
 生活区に連なる商店街 とある食品店の店先に、ばったり出会った二人の女性達がいた
 
 そのうちの一人が出会い頭にそう話を切り出した
 
「あら? なんのことかしら・・・ウエポン社の新ブランドの話?」
 
 もう一人の女性は、首を傾げる
 
 相手はその反応をみるや、露骨なため息をついた
 
「いやだわ、あなたったら 例の青い雷様の話に決まってるでしょう?」
 
「あら、それでしたらもちろん知っているわ
 
 聖地の天辺だったかしら? 落ちなすったと教祖様がいっていたわね」
 
「そうなの なんでも神官や学者方の話によると、遥か昔に途絶え、姿を消したと言われている、
 
 伝説の大神様がお目覚めになる兆しなんだとか」
 
「大神様って・・・あの四大神が!?」
 
 女性は口に手を当てて大袈裟な声をあげた
 
「そうよ 光炎地雷の神様 しかも稲光ということは我らの・・・」
 
「すみません」
 
 二人の会話の最中に、小さな少年の声が割って入った
 
 女性達は話を急に区切られ、怪訝そうに声のした方へ目をやる
 
 そこには頭にバンダナを巻いた、男の子がいた
 
 その子は二人に向かって落ち着いた表情でまた言葉を発した
 
「お話中に失礼します
 
 少々お尋ねしたいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」
 
「あぁ・・・、はい いいよ 何かな?」
 
 子供のやたら大人びた態度に、女性は動揺してしまう
 
 それ相応の対応を心がけ、小さな少年の前にしゃがみこんだ
 
「ありがとうございます
 
 エーテライト氏の金物屋を探しています このあたりにあると聞いたのですが」
 
「エーテライトさん? ・・・それならこの道を…」
 
 女性が金物屋までの道筋をしっかりと教えると、その子供は頭を深々と下げて言われた方へと歩いていった
 
「不思議な子ね・・・一体何処のお子様かしら」
 
 女性がそう会話を振る
 
「もしかして・・・」
 
 もう一人の女性は子供が歩いていった方をぼんやりと眺めながら、少し驚いたように呟いた
 
「?」
 
「ほらっ! あなただってこれくらいは知ってるでしょ?
 
 帝王直属ウエスタン保安部隊、総務部部隊長トール・グラビティ
 
 あの人が例の雷鳴の日に神領で拾ったっていう子供」
 
「まぁっ あの子が!?」
 
「そうよ! 私あの日町で見かけたもの!!」
 
 
 
 
 
 
 
 二人はしばらく騒いでいたが、その横を一人の男が通り過ぎていったことに彼女達は気付かなかった
 
 
 
 
 
 
 
 ガランガランと吊り下げられたカウベルが鳴る
 
「おお、君も来たのかい?」
 
 久しぶりに見る職人の顔が、店のカウンターでにこやかに笑っていた
 
 そのすぐ近くには水色っぽい髪をした目付きの悪い子供がちょこんと立っている
 
「ヤッホー ここに来てるって聞いたから来ちゃったぜ」
 
 入り口で手を振ると、実に迷惑そうに逆三角の目を向けてくる
 
 その手にはピカピカに修理されたいつものフライパン
 
 この前虫を退治しようとしてハンマーのノリで鉄柱にぶつけてしまったアレだ
 
「さすがエーテライト師」
 
「本当だね あんな原型も無い棒っきれを丸く戻してくれた
 
 しかも顔パスだけでだそうで 料金繰り越し積み立てでもこころよく・・・立派な人格者だよ」
 
 小さな子供に遠まわしに苛められた
 
「いいんだよ坊主
 
 魔物だらけで治安が悪い世の中 のんびり城下で店開けんのもコイツのおかげだからな
 
 休みもロクに取らない働きようだ ここに金払いに来ることだってそりゃ少ねえさ」
 
 エーテライトのおっさんは子供の頭をガシガシと撫でながら豪快に笑った
 
 ああ~ 俺もやりたい・・・ガシガシ・・・
 
 かくゆう本人はバンダナの上からされてるせいで髪の毛がぐちゃぐちゃだったりしてね
 
 嫌そうに太い腕を蹴散らし、こちらへよってきた
 
 小さいなぁ 小さいなぁ・・・そんなことを思っていたらやや顔に出ていたのか、すねを蹴られた
 
「帰る」
 
 そう言って蹲る俺の横をフライパンを片手に通り過ぎていってしまう
 
「お? ちょっと待てって!」
 
「おいトールさんっ!? せっかく来たんだから金払って・・・」
 
「今もってなーい」
 
「・・・・・・・・・そうかぃ・・・」
 
 カウベルの乾いた音が鳴る その反響の中、エーテライトのおっさんだけを残して
 
 
 
 
 
 せかせか歩く子供のすぐ後ろを歩きながら、俺は空を眺め、時計台に目をやる
 
 現在は五時前の夕刻時で、この街の人達皆が大聖堂へと足を進めていく時間帯だった
 
 儀礼の時間 俺も少し顔を出そうと一瞬思ったが、数歩前をのたのた歩くこの子がいるため今はいけない
 
 それにこの後にはまだまだ残りの仕事がある 時間が心配なのでやめることにした
 
 でも、少しはやった方がいいよな? なんていうことも考えてしまう
 
 いつもみたいにちゃちゃっとすませてしまえば・・・ うん、そうしようか
 
 俺はそう思い、遠くに見える大聖堂とイレクトルの町並みを眺めた
 
 誰もいなくなった、夕陽に照らされた大通りで
 
 なかなか粋な光景だが、前を行く子供にはそんなものは見えていないのだろうか
 
 ずっと正面を向いたまま振り向こうとする気配も、余所見をする気配も無い 口を開く気も無さそうだ
 
 そんな彼に声をかける
 
「なぁボーイ ちょっといいか?」
 
 肩に触れ、引きとめようとする 手はやはり振り落とされたが、足は止めてくれた
 
 子供は振り向くと、不機嫌な顔でこちらの用件を尋ねる
 
「ちょっと礼拝な 時間は無いから簡単に」
 
「・・・何に?」
 
「何って・・・神様だよ」
 
 そういうと、子供は奇妙なものを見るような目でこちらを見詰めてきた
 
 深緑の大きな瞳が綺麗に瞬く 目付きの悪さは置いとくとしてね
 
「神って・・・」
 
 子供が口を小さく開いた しかし、それはすぐに紡がれてしまった
 
「・・・やっぱいいや」
 
 そういって黙り込む
 
「・・・・・・」
 
「・・・・・・」
 
「じゃ、ちょっと待ってろ! さっさとすませてやるからな」
 
 変に重っ苦しい空気を切り替えて、俺は神領聖地に向かって左手を掲げた
 
 その手には幼い頃から身に付け続けている青い紐
 
「それ・・・・・・」
 
「んぇ? あ、これね
 
 これは神に忠義を誓った人が身につける必需品だよ
 
 こうやって解いてから両手に巻きなおして・・・合掌! ってカンジに」
 
「ふぅーん ・・・変な文化」
 
 可愛げがないなぁ、ほんとに
 
 文化というか風習というか宗教というか・・・なんだか複雑
 
 それからまたむっすりな困った子
 
 声をかけても応答が無いが、動く気配も無い こちらの用が済むのをすでに待っているのだと今気付いた
 
 俺は急いで一呼吸してからいつもの言葉を口ずさむ
 
『When thunder roars, God of the judgment gives the world a message
 
 We are led to the thunder to cut the heavens. We are pioneers building the civilization... 』
 
 まるですれちがいざまに発する挨拶のように、すらすらと流れていく決まり文句
 
 我が親愛なる神よ どうかこの国を御護り下さい
 
 
 
「神なんて・・・」
 
 
 
 彼は小さく呟いていた
 
 
 
 
 
 
 
 早朝五時、いつものように起床し、身支度を整える
 
 今日のスケジュールを確認しながら軽い食事をすませ、小さな自宅のドアに鍵をかけて
 
 職場までの道はたったの何十メートル
 
 城門をくぐり、扉を開き、階段を上り、いつもの部屋まで辿り着いた
 
 すると自分の仕事机の上に、茶色い封筒が乗せられていることに気づいた
 
 こんな朝早くから・・・ということは、昨晩外回りをしている内に届いたのだろう
 
 なにはともあれ中を確認しよう 外側には総務部なんたらかんたらと書いてある
 
「・・・・・・枢機卿か」
 
 その言葉を目にして、あまりいい印象を持ったことは無い
 
 嫌な予感がした
 
 中に納まっていたのは無駄に高価そうな羊皮紙
 
 内容を見れば小難しくて回りくどい前書きが連なっていて、案の定一番下には書名欄が用意されている
 
 何か宗教的な問題でも起こったのだろうか
 
 わざわざ総務部の上層まで直接依頼するような、国がかり的な それにしては簡素で違和感があるけど
 
 まぁ、読めば解ると目を通す
 
「・・・・・・」
 
 俺は手紙を破り捨てた
 
 
 
「おはようございます、トール隊長
 
 昨日は巡回の方、お疲れ様でした その件に関しては後で書類が届きますので今しばらくお待ち下さい」
 
 微妙に棒読みでぞんざいに朝のあいさつを交わしてくるマグニ君
 
 こういう恒例的な時だけコイツは敬語をお使いになる
 
「で、昨日君がいないときに大聖堂から使いが来たよ」
 
 ほらな すぐ砕ける
 
「隊長は現在外回り中って言ったら手紙置いて帰っちゃった
 
 手紙は当然読んだよね 何だった? どうせ揉み消せとかなんとかでしょ?」
 
「ああ、うん 破った」
 
「何でっ!?」
 
 めちゃくちゃツッコまれた
 
「隊長!? どんだけ腐ったジジイ共の海だろうが、仮にも大聖堂の御偉い様だよっ!
 
 下手したら帝王にまで・・・! 何してんだよアンタ!!」
 
 朝っぱらから大声をあげる元気なマグニ 若いっていいね 俺はもうだめだよ
 
「まぁ、落ち着けマグニ
 
 破ったっつってもちょっとだ、ちょっと
 
 ちょっとピキッてきたからビリッといっちゃっただけだ
 
 ついついやっちまったんだよ ほら、そこのゴミ箱に捨ててある」
 
「ちゃっかり捨ててんじゃん!!」
 
 マグニは真っ青な顔でゴミ箱に飛び込んだ 実に滑稽だね とか冗談にも笑ってみた
 
 睨まれた
 
 マグニがすでに奥まで埋もれてしまっていた羊皮紙をひっぱりだしてきて継ぎ接ぎしだす
 
 といっても真っ二つで留めておいたから読むだけなら何も問題は無い
 
 ちょっとクシャってやっちゃったけどね
 
「えっと・・・
 
 先日の落雷の時にそちらで保護した子供を資料としてこちらで保護したいいいいい?」
 
「ムカつくだろ 資料ってなんだ?」
 
「そうだね、これはとても破きたくなる」
 
 マグニは破れた手紙を手近なところに置いた
 
 眉間に指を当て、忌々しそうにため息を一つついた
 
「・・・引き取ってもらう分には問題ないんだよね
 
 こちらとしても、そう長いこと迷子を留めてられないし
 
 あの子にいたっては親がいないなんてさらっというし・・・でも・・・」
 
「・・・行き先がな・・・・・・ 最近いい噂聞かないもんな、あの集団
 
 法皇様のお手伝いとかいう名目で他宗教徒を弾圧してるとか
 
 貴族様を味方につけて影で豪遊してるとか
 
 大聖堂での礼拝の時なんかで全員が揃ってるとこなんてみたことないし
 
 ああーやだやだ、ああいうカビの生えた権力馬鹿」
 
「・・・・・・」
 
「・・・どうしたマグニ君」
 
「いや、お人好しで有名なトール隊長がそこまで言うなんて・・・」
 
「オマエが先に言ったんだぞ? 乗って悪いか?」
 
「僕はいいんです 皆さん聞きなれてるんで」
 
「さすがだね というかかなり理不尽な理屈じゃないか
 
 ・・・俺にだってそんな相手ぐらいいてもいいだろ? 菩薩じゃあるまいに」
 
「いいえ 君は菩薩並みのお人好し というか馬鹿だからね
 
 珍しいとしか言いようが無い 今朝は機嫌が悪い?
 
 それとも、あの子のこと、そんなに気に入ってるの?」
 
 コーヒー噴きそうになった
 
「な、何その顔」
 
 何故そんなことを言われたのか解らなかった
 
 俺はじぃーっとマグニでも見ながら頭をもう一度整理してみる
 
「・・・・・・」
 
「どしたのさ いきなり」
 
 子供は嫌いじゃない 酷く扱うような大人は嫌だ 成敗してやりたい
 
 ただそう思って破ったんだと・・・あの時はそう思ってちょこっと後悔してみた
 
 でも、マグニに言われてみれば、何か変な気もする
 
 確かに、俺はあのちっちゃい生意気小僧を気に入ってる
 
 なんでかな 初めは何かに似ているような気がしたんだ
 
 あんまり笑わないし、つまらなそうな顔をしていたからちょっかいを出すようになって
 
 時々寂しそうな顔をしてるから仕事の合間に顔を出すようになって
 
 段々回数が増えてきて・・・
 
「ああ、うん 変だね そうかもしんない」
 
「返事遅いよ」
 
 ひとまずコーヒーを飲んで落ち着くことにしよう
 
「・・・でもなあマグニ あの子、不思議な子だと思わないか?」
 
「そりゃあね」
 
 テキパキとその辺の紙を纏めながらマグニは言う
 
「始めに保護された時は、この世で最も扱うのが面倒な『お庭言葉』を使いこなしてて、
 
 保護している内に自分で本を開いて西語まで気付けば流暢に話すようになって・・・
 
 神童だけでは納得できないレベルだよ
 
 難しいおつかいも簡単にやってこれるし、運動能力も高いみたいで足も速いときてる
 
 なんだこれ ひがみものだよ?」
 
「子供相手に嫉妬はだめだよマグニ」
 
「言葉のあやだ!」
 
 でも、一番不思議なのは、何故あんな一般人が簡単に立ち入れない聖奥にいたのか、だよな
 
「ムシすんなよコラッ!!」
 
 あの子はそのせいで教会から目を付けられたわけだし
 
 いや、庭言葉を完全に理解してるというのも大きいだろうな
 
 まだ解読できていない部分も読めてしまうかもしれない あの子ならやりかねん
 
 ここで手紙を見なかったことにしても、また使いが来るのは目に見えてる
 
 大した意味もなく断ったところで素直に聞き入れる相手でもない
 
 やはり、教会の意思に背くに相応しい理由が必要 あるいは・・・
 
「あっ! いいこと思いついた!!」
 
 俺が大声を上げると、マグニは変な顔で毎度の如く同じ反応をする
 
「変なことすんなよ?」
 
「しないしない、大丈夫」
 
 俺は得意の笑顔でごまかした
 
 
 
 
 
 
 
 基本的に俺は休憩時間をとらない 仕事が好きだからだ
 
 というわけで明け方出勤でそのまま働きづめ 気付けば真昼間
 
 俺が手を休めるのは食事にあてるこの時間帯と、仕事が全部片付いて暇な時だけだ
 
 もうちょっと若い頃はそんな希少な昼食も机上や野外での簡易食だった
 
 ここ数年は部下のマグニ君がやかましいのでしぶしぶ仕事を中断している
 
 あのままの生活をしていたらいくら俺でも生活習慣病で早死にするところだったから、まぁ助かったんだと思う
 
 今の人生にコレといって問題は無いと思っている
 
 地位も上々 家柄は最高 人望は厚い 職務は完璧 容姿もまずまず 貯金も十分で老後も安泰(多分こない)
 
 が、
 
 齢34にして 仕事バカなため家庭が無い
 
「・・・・・・ごめん、じいさん」
 
 こればっかりはどうしようもない 今後の希望も全く無い
 
 別に血筋やら家門やらは親戚がどうにかしてるから問題ないんだけどな
 
 グラビティ家、帝国に身を寄せること150年 歴代当主は皆武人、文人 上層部で常に帝国を守護してきた英雄一族
 
 だから、現当主として、血を絶やすなんていうことは・・・正直すっごくヤバイ
 
 でも気にしない それが俺
 
 ということで、しばしば移動時間中に柄にも無く嘆いてみた次第です
 
 気付けば目の前にはここ最近よく入る部屋がある
 
 ドアを軽くノックすると、しばらくして鍵の開く音がする そしたら俺がドアを開ける
 
「ヘイッチビすけ! How are you!!」
 
「あいむふぁいん」
 
 返事はいいけどサンキューが無いっ!
 
 室内にいた生意気小僧はそれだけ言ってさっさと机に戻って本を開いてしまった
 
 いや、ここまで打ち解けれるようになるのにも、結構時間がかかったんだぞ?
 
 なにせもうあの子が此処にきてもうすぐ半月だ そう、もうすぐ半月なんだ
 
 以前は時々鍵をかけっぱなしで二、三日出てこないなんてことが頻繁にあった
 
 さすがに心配になってマスターキーで侵入すれば、室内でぐっすり不貞寝
 
 起したら起したで色々なものが飛んできた 誰に似たんだろうなこの子 親御さんの顔が見て見たいです
 
 六歳で引き篭もりって・・・むしろ才能を感じる
 
 そんな才能も月日が過ぎるにつれては封印されてきたらしく、しばしば部屋から出たり他人とも口を利いたりはするようになった
 
 数日前からか以前からなのか、この頃は施設内の礼拝堂から聖書を借りてきてよく読んでいる
 
 今もそうだろう あの本の分厚さ、間違いない
 
 俺も小さい頃何が楽しいのか聖書数冊を熟読した 神という存在に酷く憧れ、今でも腕に紐を巻いてるぐらいだ
 
「今日は何を読んでるんだ?」
 
 そんな聖書は話を切り出すために利用するにもってこいだ
 
 チビはそういわれて素直に表紙や中の挿絵などをパラパラと見せてくれた
 
「・・・テラス教・・・でもないよな・・・・・・もしかして、八神教?」
 
 そういうとチビは頷いた
 
「神について知りたくて、それにはこれが一番的確だと思った」
 
「なんでだ?」
 
「世界的に最も信仰が厚いのはテラス教 でも、最も有名なのはこの八神教
 
 神から与えられた伝承がそのまま文化に溶け込んだ結果・・・つまり原型みたいなもの」
 
 むつかしいことをいうなぁ この子
 
「八神なぁ・・・」
 
 やや特殊ではあるが、一応テラス教の思想がどっぷり浸透しているこの国ではあまり話題にはならない
 
 だからか、名前ぐらいしか知らない
 
 国が国教を守るためにそうさせているんだ 仕方ないといえば仕方ないけど仕方なくはない
 
 しばらく俺はペラペラと変わっていく文字の羅列を眺めていた
 
「ところでなぁ、ちっちゃいの」
 
「失礼な呼び方すんな!」
 
「どうどう、
 
 で、そろそろ教えて欲しいんだけどさぁ・・・いいかな?」
 
 チビは「何のこと?」っといった顔でこちらを見る ちょっとジャマそうな目で
 
「オマエの名前だよ」
 
 相手はしばし沈黙した
 
「ああ、そんなこと」
 
「そんなことって・・・オマエちっとも名乗らないから、今まで指示語ばっかで不便だったんだぞ!?」
 
「しらないよそっちの事情なんて」
 
 ああーもう、捻くれた子だこと!!
 
「で、お名前は? 言ってくれるんだよね?」
 
「うん・・・
 
 俺の名前はライディ 親が付けた勝手な名前だけどな」
 
「それ普通だよ
 
 苗字とかは?」
 
「苗字? ・・・それらしいのはあるけど、苗字はないよ」
 
「へぇ~ 苗字が無い部族なんだな オマエなんか特殊なカンジするもんな
 
 案外下の大陸から来た人魔とかだったりするのか?」
 
「勝手に想像すれば?」
 
「あー、うん そうするよ え~と、ライディ君?」
 
「・・・君って・・・・・・」
 
 あ、なんか不服そう 呼び捨てがいいのかな? それとも「ちゃん」とかがよかったかな?
 
「でも・・・そうか、苗字が無いか それはこの国ではさぞかし不便だろう」
 
「そっちもあんまり普段は使わないから、あんまり問題ないと思うけど?」
 
「いやいや こちらは戸籍やら書類やらで家名等が必ず必要なんだよ」
 
 そんなもんか? っと、ライディは不思議そうな顔をする
 
 そして俺は思いっきり悩んだフリをして、しっかりもったいぶって そこで言う
 
 
 
「よし!
 
 ライディ! オマエはこれから『ライディ・グラビティ』だ!!」
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハァ?」
 
 
 
 
 

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