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・・基本有言不実行・戯言駄文録・・・
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05.18.22:42

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  • 05/18/22:42

05.22.05:52

追憶:導きの英雄 B

  名門であるグラビティ家の家系図に、真新しい名が追加されてしばらくのこと・・・
 
 ライディを保護していた部屋の期限は切れ、そこにはすでに他の子供が住むようになっていた
 
 代わりに彼は現在、勝手に養父になった俺と暮している
 
 小さな子供が一人くらい増えたところで、こちらの暮らしになんらかの支障がでることはなかった
 
 むしろ家事を勝手にしてくれる息子に世話になっているくらいだ
 
 ライディは新しい暮らしに戸惑っていたようだが、日が経つにつれて段々と慣れてきたようで、
 
 俺に対する態度も、本当に少しずつだが友好的なものに近付いてきている ような気がする
 
 あいかわらず機嫌が悪そうな顔をしていたが、それは以前より和らいでいるんだ と思いたい
 
 
 
 そんな日々が続いていたある日、俺の下にまた一通の手紙が届いた
 
 その手紙の内容は、我々西国保安部隊に対する任務の依頼だった
 
 やがて任務の内容は大規模な魔物の討伐遠征へと発展していった
 
 俺は当然この遠征に参加することになり、数週間戦いの場にて隊員の指揮をとらなければならない
 
 他の仕事はマグニを始めとした部下に分配し、基地内での隊員の指示や管理も同時に委ねた
 
 武器や防具も新調したし、勝利を祈願しに教会にも出向いた
 
 皇帝にもことの次第を説明したので、都の警備もひとまず安泰
 
 ほぼ全ての準備が整った それから俺は最後にマグニへライディの世話を任せた
 
 
 


 
 
「いってらっしゃいませ、総隊長殿!!」
 
 総務部の部下達からの暑苦しい見送りを受け、俺は遠征に参加する隊員が待つ広場へと急いだ
 
 普段着と違う、久々の鎧や金槌の重さは、俺に戦いに挑む前の独特の緊迫感を与えてくれる
 
 
 
 そう、今回の遠征で相手にするのは、普段相手にしているチンピラや盗賊共とはワケが違う
 
 
 
 魔物
 
 
 
 ここ数年でその数は急増し、日が増すごとに奴等は凶暴化している
 
 何十年も前は、剣に秀でた者ならば自らの倍以上もの大きさの鬼と対等に戦えた程度の強さだったというが、
 
 今では手だれた戦士が数人で連携を組まねば、小さな魔獣すら倒せない域にまで達してしまっていた
 
 世界中が凶悪な魔物の群れに悩まされている
 
 この国だって例外ではない
 
 大帝国の軍事力をもってしても、結果は実にむなしいもので、
 
 外面は豊かで贅沢な国風も、住めば途端に霞んだ幻と化すのが・・・これまた悲しい事実
 
 国中の人々が食い殺され、土地を荒らされながら脅えて暮している
 
 
 
 そして、この皇帝直属の保安部隊は年に数回その戦いに借り出される
 
 地方の防衛組織ではどうにもならない規模の問題を解決するため、
 
 我々は時に大陸を横断するほどの大遠征を行うこともある
 
 それは大海を挟んだ東国との戦争を彷彿とさせるほどに激しい
 
 
 
 基地の出口を前に、俺は立ち止まった
 
 息をゆっくりと吸い、目を閉じる
 
 左手を金槌の柄に沿える
 
 重要な任務へ行く時、俺はいつも基地の扉を開ける前に精神統一をする
 
 物音一つたたない静かな空間の中、自分の心音だけが木霊する
 
 
 
「・・・よしっ」
 
 
 
 俺は小さくつぶやくと、扉に手をかけた
 
「トール!」
 
 急に呼び捨てにされ、俺は驚いて振り向いた
 
 するとそこには、いつも以上にむっすりとした顔のライディの姿があった
 
「なんだ、ジュニア どうした?」
 
 俺がいつもの調子で笑いかけると、ライディはこちらを無視してずんずんと近付いてきた
 
「なんだも何も無い! 出掛けるならその前に俺に顔ぐらい出してくれたっていいだろ!?」
 
「え・・・あっ! ごめん・・・」
 
 ライディの口から飛び出した意外な言葉に、俺は動揺して口調がどもり、同時に嬉しくて頬が緩んでいた
 
「マグニにお前のこと頼んだ時に、言ったからもういいやとかおもっちゃって・・・」
 
 俺の気の聞かない言い訳に、ライディはますます怒ったのか、こちらを怖い顔で睨んでくる
 
 神童にここまで怨まれると、祟られるんじゃないかと心配になる
 
 俺はなんという対応をしたらいいのかわからず、手をよくわからない動作でバタバタさせていた
 
 正直部下に見られでもしていたら・・・穴に入りたくなるぐらい滑稽なものである
 
 そんな俺の反応に何を思ったか、ライディはハァ…と露骨な溜息を吐き、表情を少しだけ和らげた
 
 若干呆れ気味なのはもう慣れた 常に人を見下しているんだからこればっかりは仕方ない
 
「もう、いいよ・・・大変なんだろ? 今回の仕事」
 
 彼の言葉はいつになく妥協気味で、卑屈だった
 
 先とは一変して、段々とその目線は俺の顔から遠ざかるように下がっていった
 
「ジュニア・・・」
 
 その姿はいつになく子供らしいものだった
 
「そのかわりっ!!」
 
「!?」
 
 ライディは突然顔をあげ、俺の目をしっかりと見上げながら力いっぱい言った
 
「帰ってきたら真っ先に俺のところに来いよ!!」
 
「・・・・・・」
 
 隙を突かれて放たれたあまりに子供らしくて可愛らしい発言に、俺は度肝を抜かれた
 
 思わず口がポカンと開いてしまう
 
「いいな!?」
 
 もう一度強く念を押され、俺はやっと彼の言葉に頷けた
 
「ああ、解った 約束だぞ!」
 
 俺は愛する息子の前にさっと手を出した
 
 ライディはその手の上に自分の手を置き、がっしりと握り締めた
 
「・・・破るなよ」
 
 むっすりと可愛げのない顔でそういわれると、どうにも破る気がしなくなる
 
 俺はニッコリと笑顔を向け、その小さい手を優しく握り返した
 
 
 
 
 
 扉をくぐり、基地を後にした
 
 最後にもう一度後ろを振り向くと、入り口の前でライディが一人で立ちつくし、見送ってくれていた
 
 手を振って旅立ち前の最後の別れを告げる
 
 すると彼もまた、遠慮がちに手を振り返す
 
 
 
 いつもとは違う旅立ち
 
 
 
 こういうのは、悪くない
 
 
 
 
 
 
 
 月の光が窓ガラスを通り抜け、部屋を青白く照らす
 
 
 昼間は眩しすぎたため、カーテンをしいてあったというのに、ひとたび夜になってみると暗闇に寂しさを見出してしまう
 
 隊員の大半が任務に出てから、一週間ほどが経過した
 
 まだしばらく彼らが帰ってくる兆しは無く、ライディは小さな部屋の床に座り込んでいた
 
 トールに引き取られる前のライディの生活はほとんど人に会わず、ひたすら自室でじっとしているだけのものだった
 
 彼がいない今、ライディはそんな生活に引き戻されていた
 
 時々マグニが顔を出しにくるが、他の仕事も忙しいのかそれも一瞬のことで終わってしまう
 
 
 
 今日もまた長かった日が沈み、何もしない一日が終わりを告げようとしている
 
 そんな中、大きな汽笛が西の果てから轟いてきた
 
「汽笛・・・? そんなわけ・・・」
 
 ライディは立ち上がり、窓枠に手を付いて外を見渡した
 
 すると西方に伸びた鉄道に、大型の機関車の姿があった
 
 黒に近い青色の車体に、金と黒の縁取りと装飾
 
 それは間違いなく西国保安部隊のものだ
 
 此度の遠征に使用されたその汽車が次に帝都にやってくるのは、二日後の昼の予定
 
 それが何故このような時間帯にやってくるのか
 
 悪い予感しかしなかった
 
 
 
 基地内の隊員達は一斉に起床し、寮の灯りが次々とともっていった
 
 一部の隊員達だけが、自前に指示をされていたらしく、忙しい様子で基地を出て行った
 
 暗がりでライディの目にはよく見えなかったが、彼らそれぞれが救急用具や担架などを手にしている
 
 遅れて緊急用の医療部隊の救急車が次々と発進していく
 
 慌しい量のサイレンが人々の心を不安定にし、駆け抜けていく
 
 沈みかえった街明かりも次々と灯っていく
 
 
 
 そんな人々の様子をひとしきり目にしたライディは、慌てて上着を羽織り、部屋を飛び出した
 
 
 
 すでに基地内に人の姿は無い
 
 皆がこの緊急事態に対応し、出陣していってしまったのだろう
 
 一回のフロントまで来たはいいものの、出口はすでに施錠されていた
 
 こちらから開けることは可能だが、そんなことがして良いことか悪いことかなどはわかりきっている
 
 ライディは基地内を駆け巡ったが、扉どころか窓の一つも不行き届きは無く、全てに鍵がかかっている
 
 痺れを切らしたライディは、三階の自室まで戻ってきていた
 
 そして窓を勢いよく開き、外へ飛び出して行った
 
 
 
 ねっとりとした真夏の夜の空気を二つに引き裂くように、ライディは街の中を駆け出し行った
 
 野次馬で家を出て来た人々の間を器用に潜り抜け、どんどんと汽車が停車した駅に近付いていく
 
 そしてライディは駅前の広場へと辿り着いた
 
「っ!!」
 
 ライディは驚いた
 
 目の前の光景は、まさしく野戦病院のようであった
 
 大量に繋がれた汽車の車両には、現地で負傷した沢山の人間が詰め込まれていた
 
 小さな子供から年老いた老人まで、世代など関係なく、彼らは一様に自らの傷を抑えて呻いている
 
 中には遠征に行った隊員の姿もある
 
 ライディが呆然と立ちずさむ横で、青い顔をした都民達が震えた声で会話していた
 
 
 
「これは・・・一体どういうことなんだ?」
 
「例の魔物との戦いが悪化したらしい・・・」
 
「大型の魔物が大量に民家に襲い掛かって行ったとか・・・」
 
「負傷者が多すぎて、もう現地の病院だけでは治まりきらない・・・」
 
 
 
 聞こえてくる内容は、耳を塞ぎたくなるような現実だった
 
 戦争が他国に比べて比較的多いこの国でも、最近は魔物問題でそれどころではなく、
 
 このようなことに出くわすのは初めてという人も多かった
 
 広場に充満する血と薬品の匂いに気分が悪くなる人が現れ、次第に傍観者も減っていった
 
 そんな中、ライディは必死で忙しく動き回る多くの人々の中から、見知った人物の姿を探していた
 
「・・・いない」
 
 ライディは小さく呟いた 顔からは血の気が引いている
 
 更に彼は広場を回りこみ、汽車の方へと走っていった
 
 車両には死臭のような、酷い血の臭いが篭もっていた
 
 離れたところで咽ぎ込んでいた中年機関手が、ライディの存在に気付いて歩み寄ってきた
 
「どうしたんだい、僕?」
 
 ライディは振り向くと、縋る様に機関手に尋ねた
 
「総隊長は・・・トールはどうしてるんですか!?」
 
 必死で、心配そうに尋ねる子供の勢いに気圧されながら、
 
 その一方で機関手は彼の肩を掴み、宥めながらその問い詰めに答えた
 
「総隊長ならまだ戦地に残っている 大丈夫 大した怪我はしていなかった」
 
 機関手は優しく、彼の求めていた答えを口にした
 
「ほ・・・本当?」
 
 ゆっくりと男の顔が縦に揺れるのを確認すると、ライディの体から途端に力が抜ける
 
 俯いたライディの足元に、小さな水溜りが出来た
 
 

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