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・・基本有言不実行・戯言駄文録・・・
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05.19.03:17

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  • 05/19/03:17

05.22.05:54

追憶:導きの英雄 C

 
 
 基地に帰ると、入り口の扉は開いていた
 
 そこから中を窺うと、事務室の窓ガラスの奥に、マグニと数名の隊員の姿があった
 
 ライディは気付かれないようにそっと事務室の壁に近付き、彼らの話を聞いた
 
「よりによってこんな緊急事態に訪問するとは、奴等の頭はそこまで沸いていたのか!」
 
 マグニが何時になく機嫌の悪い声でそう言っていた 声色が低い 相当怒っているようだ
 
 机に分厚い書類の束を叩きつける大きな音が立ち、
 
 ライディを含み、横に立っていた数人の隊員の身をビクリと震わせた
 
 椅子が引かれる音がした
 
 マグニが立ち上がったらしく、ライディはフロントカウンターの後ろに身を隠した
 
 事務室の扉が力任せに開かれ、出て来たマグニは隊員に何かを指示した
 
 隊員は敬礼をすると、外へ飛び出していった
 
 彼らが出て行くのを確認すると、マグニは扉をまた施錠し、そのまま通路の奥へと行ってしまった
 
 ライディはそっとカウンターから出ると、気付かれないようにマグニの後ろについていった
 
 
 
 やがてマグニはとある一室の前で立ち止まると、眉間に手の平を当て、溜息をついた
 
 そして軽くノックし、部屋へ入っていった
 
 ライディはしばらく出てこないことを確信できた頃に、扉の前へやってきて、室内の会話に耳を傾けた


 「我々とて、悪い話を持ちかけているわけではない
 
 唯一つ、そちらの了承さえいただければ、この国の文化は大いに成長するだろう」
 
 壮年の男の、やや乾いた声がした
 
「なんどいえばわかってもらえるのでしょうか?
 
 そちらが訪問される度、此方は断っているのが理解できないのでしょうか?」
 
 マグニの、やや苛立った声がする
 
「理解できない だからこそこうしてわざわざ此方から出向いているのです
 
 何に不満があるのか、もう少し詳しく教えて貰えませんかね?」
 
「何度も説明したではないですか? あなた方教会に彼を受け渡す気は無い
 
 彼にはすでに身よりがある そちらが引き取る必要も全く無い
 
 あなた方が彼に何をしようとしているのかも、満足に知らせてくれてはいないではないですか」
 
「そんなことは武力しかもたない戦闘団体であるあなた方に言ったところで理解してもらえないではないですか」
 
「そちらがそのような態度を貫く限り、こちらとしても一切の交渉を受ける気にもなれません
 
 早々に立ち去って下さい 今すぐに!!」
 
 机に手を置く、大きな音がした
 
 両者の間にの言葉は無途端に無くなった
 
 重苦しい沈黙に息が苦しくなる
 
 
 
「・・・それは、あなた一人の独断ですか? 随分と私情が感じられますが・・・」
 
 沈黙を破り、男の低い声がその場に響き渡る
 
 それに、マグニは落ち着いた声で答えた
 
「総隊長の独断です 私含め、他全ての隊員の意見も聞いてはいません
 
 ですが、
 
 彼の言葉は我々にとっては絶対です
 
 もう一度言います
 
 我々西国保安部隊は、ライディという少年をそちらの機関へ受け渡す気は、全く持ってありません!」
 
 
 
 マグニの力強い声が響く
 
 そしてまたしばらくすると、何かが叩きつけられる音がした
 
 ライディは驚き、弾ける様に扉の前から離れていった
 
 そしてそのまま、自分の部屋へと帰っていった
 
 
 
 
 
 
 
 負傷者が大量に運び込まれたあの日から、また数週間の時が流れた
 
 そんなある日の夕暮れに、もうもう一度大きな汽笛が帝都に轟いた
 
 窓際でぞっと外を眺めていたライディは、目を見開いて大きくなっていく機影を見やった
 
 またしてもぞくぞくと隊員たちが基地を飛び出してくる
 
 しかし、彼らの様子は以前とは違っていた
 
 朗報があったのだ
 
『魔物の鎮圧に成功した 数日後に帰還する』
 
 短く告げられた言葉の並びに、隊員達は歓喜の声を上げた
 
 戦に傷つき、ひとまず早く帰還することになってしまった隊員達も、ベッドの上で喜びの声を上げていた
 
 それはライディにとっても例外ではない
 
 彼の顔は安堵と喜びに満たされていた
 
 そしてドアに向かって走り出したが、ドアノブを掴んでから、ふとある言葉を思い出した
 
『帰ってきたら真っ先に俺のところに来いよ!!』
 
 トールを見送る際に、自分が言った言葉
 
 トールは笑顔で約束してくれた 必ず守ると、暖かい手がそう告げていた
 
 ライディはドアノブから手を離した
 
 必ず守ってくれる
 
 ライディは何の根拠も無い彼の言葉を信じ、ベッドに座り込んだ
 
 自分は待っていればいいんだと、そう思った
 
 
 
 帰ってきたら真っ先に言いたいことがある
 
 
 
 
 
 基地内はさらに騒々しくなっていた
 
 帰還した多くの隊員たちが歓声と共に迎え入れられてゆく
 
 その中にまだトールの姿は無かった
 
 恐らく汽車の近くで隊員達に最後の指示を与えているのだろう
 
 ライディはそう思い、もう一度ベッドの上に戻った
 
 枕を抱え込みながら、ごろごろと転がりながら時間を潰す
 
 
 
 そうしていたら、急に外の騒ぎが小さくなった
 
 何だと思って窓から外を見ると、さっきまでワイワイと騒いでいた隊員達が、
 
 皆一同に心配そうな顔でどよめいていた
 
 
 
「何だ?」
 
 ライディはわけもわからず首を傾げた
 
 しばらく様子を眺めていると、急にドアの向こうからマグニの怒声がした
 
 驚いてドアを開くと、そこにはこちらに背を向けて仁王立ちするマグニの姿があった
 
 そして、その奥には・・・
 
「お、Hey ジュニア! 元気そうで何よりだ」
 
 待ちに待ったトールの姿があった
 
「トール!」
 
 どうしようもなく彼に飛びつきたい衝動に駆られたが、しがみついたドアから離れようとすると、
 
 マグニがライディの目の前に手を出し、行く手を阻んだ
 
「ほらっ、もうライディ君にも会ったからいいでしょう!?
 
 さっさと医務室に向かってください!」
 
 そういわれてライディはやっと気付いた
 
 不自然に壁にもたれかかったトールの体から、服から、血が染み出ているのだ
 
 ライディの顔が青くなると、それに気付いたトールが申し訳無さそうな顔で言い宥めた
 
「ごめんな、ジュニア ちょっとやらかしちまってさ
 
 後でまた来るから、待っててくれよ?」
 
 トールの笑顔は引きつっていた
 
 ライディは震えながら、コクコクと小さく頷いた
 
 そして呆れ顔で頭を抱えたマグニが、トールの後ろでしどろもどろしていた医療部隊員に指示し、
 
 トールを医務室まで連行させた
 
 トールの姿が曲がり角を過ぎ、見えなくなると、マグニは一息ついて、後ろにいるライディに目をやった
 
 心配で、今にも泣き出しそうな小さな子供の頭に、マグニはそっと手を置いた
 
「大丈夫だよ しばらく安静にしてればすぐによくなるさ」
 
 ライディがその顔を見上げると、マグニは柔らかく微笑んだ
 
 
 
 

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